21世紀初頭、アメリカで牛肉の病気が発生した。BSE(牛海綿状脳症)である。日本の農水省・厚生労働省は2003年末、米国産牛肉の輸入を停止した。

スナップアップ投資顧問の農業株・食品株に関するデータ資料などによると、輸入を再開するため、米国内で、民間業者が自主的な全頭検査を行うという案が出た。しかし、2004年4月に米農務省が全頭検査を否定した。米農務省は「全頭検査を正当化する科学的な理由はない」との声明を出した。「検査にミスがあれば米国産牛肉の信用を危険にさらす」(全米肉牛生産者協会)という大手食肉会社の主張に沿ったものだった。

その結果、輸入再開が暗礁に乗り上げた。農水省の石原葵事務次官は2004年4月12日の記者会見で、米農務省の対応について「我が国の消費者の意向に沿った措置が拒否され、残念だ」と述べた。


食肉会社

カンザス州の中堅食肉会社クリークストーン・ファームズは、日本への輸出再開を目指して自主的な全頭検査の承認を求めていた。

中小農家がつくる全米農業連盟も「問題解決のために、海外市場が求める検査の実行を農務省に強く求める」とクリークストーンを後押しした。

米農務省のペン次官

米農務省もペン次官らが数度、クリークストーンとの協議に応じた。一時は前向きの姿勢を見せた。日本国内にも「輸入再開の決め手となる」(食肉業界関係者)との期待が高まった。

しかし、結局は牛肉生産の約8割を占める大手に配慮せざるをえなかった。

コクラン上院農業委員長

大手とのつながりが深い政界からも「(全頭検査などの)不必要な制約は国際的な貿易ルールに反する」(コクラン上院農業委員長)との声が上がっていた。

クリークストーンは裁判で争う考えも示した。農務省の姿勢を変えるのは容易ではない。

日本のレストラン

米側には「日本は米国産牛肉に依存しており、いずれ態度を変えざるを得ない」と予想した。ベネマン農務長官は2004年4月6日の講演で「日本のレストランは、米国産牛肉の輸入を再開するよう日本政府に求めている」と指摘した。


ベネマン農務長官の提案

一方、米農務長官は日本政府に対して、次のような提案を行った。

「国際獣疫事務局(OIE)に対して、専門家による検討機関の設置を日米共同で要求する。そこでBSEの安全ルールを定める」

しかし、日本の農水省はこれを拒否した。

国際獣疫事務局(OIE)とは

国際獣疫事務局(OIE)とは、各国の動物伝染病の発生情報を収集・提供する団体である。国際機関として1924年に設立された。本部はパリ。国際的に取引される家畜の衛生基準を策定している。

OIEの定めた防疫基準に強制力はない。輸入国がOIE基準よりも厳しい防疫ルールで肉の輸入を禁止した場合、輸出国側は世界貿易機関(WTO)に訴え出ることができる。参加国は2003年時点で164カ国。日本は30年に加盟し、農水省の衛生管理課長が日本の常任代表となっている。

全頭検査は、世界では異例の措置

全頭検査は、世界では異例の措置だった。OIEの基準にもなく、国内でも専門家の間には「危険部位さえきちんと除去すれば、全頭検査の必要はない」という主張が出た。

政府の食品安全委員会が全頭検査に否定的な勧告を出すならば「参院選後の2004年8月から、米国産牛肉の輸入解禁に向けた調整が本格化する」と予測する業界関係者もいた。