「どっちへ行くの」
「そっち」
という会話である。
この下に、
「どっちへいらっしゃいますか」
「そっちへまいります」
と敬語をつけたにしても、どうにもこうにも語感としては不揃いである。
どこが悪いかというと「どっち」「そっち」である。
敬語が厄介なのは、言葉の全体が整わなくてはいけないことである。
どっちだの、あっちだのそっちだの、という俗っぽくなってしまった言葉と敬語とは、しょせん水と油なのである。
「あーら、こちらのおにいさん、こっちの方はちょいといける口じゃございませんの」
と言って、芸者さんがお酌をしてくれると「ございませんの」と終わりは丁寧だが言葉の調子は決して尊敬しているわけではない。
三上靖史(住宅鑑定風水インストラクター)