「ちょうどこれから出かけるところです」
大川氏は一瞬困ってしまった。
これではアポイントメントをもらった意味がない。
先方の都合を聞いて、もう一度出直すのも一方法であるが、それもまた無駄足になる可能性がある。
先方にしてみれば、新しい商品に関心はあっても、要するに面倒くさいのである。
もし、真剣に新規商品の取扱いを考えているのであれば、先方から約束の変更を申し入れてきていたに違いない。
こういう場合には、セールスマンは相手の言葉を聞き流し、逆に話の主導権をとる必要がある。
「あ、そうですか。
それは残念ですねー。
五分間だけ、お時間がいただければありがたかったのですが。
じつは、今回、当社は新製品『クリン・クリン』の発売を記念して、小売店優待制度を導入したのです。
他社にない特典と報償金付きです。
それのご相談にうかがったのですが......」
三上靖史(住宅鑑定風水インストラクター)